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人生の感想。映画のネタバレなどする場合があります。

ちょっ………と良すぎません?「新感染 ファイナル・エクスプレス」

 更新に超大幅に間が空いてしまい失礼いたしました。楽しみに待っていらっしゃった方がいるかどうかはさておいて、物の見事に3回の更新で飽きてやめるというのはあまりにも…ということで、数か月ぶりにブログを書いていこうと思う。

 

 いや、更新の理由はあながちそれだけでもなくて、実はナメてかかっていた映画が期待を1億倍上回る面白さだったので、これを書き残しておきたかったのだ。その映画というのが、「新感染 ファイナル・エクスプレス」である。

 

 

 主人公・ソグは、妻とは別居し、娘のスアンにもろくに構えない仕事人間である。ある日、釜山に住む母親に会いたいというスアンを連れ、列車に乗り込むことに(邦題では「新感染」とあるが、これはインパクトを重視したネーミングであり、舞台となる列車は厳密には新幹線ではない)。乗り合わせるのは、実直な運転士、美人の客室乗務員、おばはん姉妹、高校球児、ホームレス、バス会社常務のヨンソク、そして、サンファと妊娠中の妻ソンギョンなど、個性的なメンバーだ。

 列車は、一人の女が駆け込むのを間一髪で許し、ドアを閉める。この女、足には噛み傷を持ち、怯え切って只事ではない様子である。ちょうど同じ頃、スアンは窓の外で駅員が何者かに飛び掛かられるのを見かける。ホームでも何かが起きているようだ。

 美人乗務員がすかさず女に声をかけるが、女は一度事切れるも束の間立ち上がり、乗務員の首筋に噛み付いた。乗務員も乗客の目の前で一度息絶えたかと思えば、瞬時に立ち上がり、凄まじい形相で乗客たちに襲い掛かった。高速で走行する列車の中で、ゾンビパンデミックが始まったのだ。

 ソグは生き残りをかけ、スアンを守りながらゾンビと戦う。救援のため駅で待機していた軍隊の全滅、仲間たちとの分断、線路の断絶や暴走列車の登場など、数多の障害が生存者を襲う。果たして親子の運命は…?

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↑よく見ると結構カワイイ最初のゾンビ。日本語吹替は川澄綾子

 

 さて何から書いていこうか。この映画、誉め言葉を並べているだけで一晩明かせてしまいそうなほどお気に入りである。

 

 まず、シチュエーションの活用が非常に見事だ。逃げ場のない乗り物の中を舞台とするゾンビ映画といえばジャンボジェットの中を逃げ回る「デッドフライト」を思い出すが、線路の上を走っている、途中停車駅があるという列車の特徴が、「デッドフライト」とは一味も二味も違った展開を繰り広げていく。ゾンビにも、噛まれてからゾンビ化するまでが早い、人間を見ると凄まじいスピードで襲ってくるが視界から外れると大人しくなる、暗闇では目が見えないなどの特徴を設けることで、ゲーム的とも言えるスリリングなミッションを次々と生み、それらが物語上に隙間なく敷き詰められているので、二時間余りの上映時間が列車のようにあっという間に過ぎ去ってしまうのだ。

 そして、人物一人一人の描き方も実に鮮やかである。主人公・ソグは悪い意味で合理的な人間で、安全な客室へ逃げ込もうとする人間がいるのに、至近距離までゾンビが迫っていたために扉を閉めてしまったり、パニックの中老人に席を譲るスアンを「こういう時は自分のことだけ考えていればいい」と叱ったり、知り合いの軍隊関係者に、自分とスアンだけ隔離を免れるよう根回しをしたりするのだ。これが結構リアルというか、映画の中でこそ登場人物たちは勇敢に戦うが、現実の恐怖に直面した時、人々は割とこんな振舞いをしてしまうのではないだろうか。そんなソグも、父親の姿を嘆く娘の涙を見て、やがて共に生き残る乗客たちのために戦う勇気ある主人公へと変わっていく。スアンは、普段自分を構わないソグに対し素っ気ない態度をとることが多いが、心の底では家族を愛しており、先述のように老人に席を譲ったり、恐怖を紛らわすために歌を歌ってあげたりと、心優しい少女である。ソグと共にスアンを何かと手助けしてくれるのが、サンファとソンギョンの夫婦だ。サンファは少し乱暴だが妻とまだ見ぬ子どもを守る気持ちはめっぽう強く、並みいるゾンビ達を相手に素手で好戦する頼もしい男で、その妻ソンギョンは、身重でありながら、我が子のようにスアンと行動を共にし元気付けてくれる優しいお姉さんである。ゾンビ映画におけるありがちな悪役として、バス会社常務のヨンソクがいる。これがまた清々しいほどのクソ野郎で、自分可愛さに他人を足蹴にすることをまったく厭わないタイプだ。他にも、深い姉妹愛で結ばれた中年女性のジョンギルとインギル、高校野球部の好青年ヨングクと彼に思いを寄せるジニなど、個性豊かなキャラクター達が各々のドラマを見せる。意味ありげに登場するホームレスが、結局物語とは特に絡まることもないまま退場していくが、もしかしたら本作の前日鍛であるアニメ作品「ソウル・ステーション/パンデミック」と何か関りがあるのだろうか?筆者は見ていないので謎だ。

 あとはやはり単純に話が面白い。列車がソウルを発車してから釜山に向かうまでの短い時間で、多彩な登場人物たちが、驚くほど丁寧に、しかし映像のテンポを損なうことなく、家族や友を守るために戦うこと、愛する者との別れ、助かりたい一心から渦巻く醜いエゴなど、多様なドラマを展開していくのだ。この映画は劇場公開当時、ワイドショーの映画コーナーなどで、パニックの最中の家族愛を描いた感動作としてしきりに取り上げられていた。筆者は、「パンピーどもがうっすいレビューで騒ぎやがって」などとアングラオタク特有のヘンなプライドから劇場には足を運ばなかったのだが、ナメてました。すんません。超面白かったです。映画館で観なかったことを心から後悔してます。ホラーファンが観てガッカリしない程度にゾンビ達は怖いのだが、ゴア度はそれほど高くないので、ホラーが苦手な人にもおススメできるだろう。それこそ、ドラマチックな人物描写は本当に感動的だし、恋人で観るにもご家族で観るにもそんなにハズさない映画だと思うがどうだろう。何分筆者はギークなのでそのあたりの感覚はサッパリである。

 他にも、日本人としては身近な韓国人の顔をしたゾンビが欧米のそれよりも一層生々しい恐怖と嫌悪感を煽るとか、深夜アニメファンには耳馴染みが深い声優たちが吹き替えを担当しているとか、細かい楽しみどころはあるのだが、キリがないのでこのくらいにしておこう。とにかく、観た後にこれほどまでにテンションの上がった映画は久しぶりであった。満足度は僕が保証するので、是非皆さまにも観ていただきたい。もしご満足いただけなかったら、この間ディスクユニオンで108円で買った「ゾンビ・ハイスクール」のDVDを先着一名様にプレゼントいたします。