人生が楽しい

人生の感想。映画のネタバレなどする場合があります。

この時間があと8時間くらい続けばいいのに…。「カメラを止めるな!」

 新宿をブラついていた時に、ふと尿意を催し、トイレを借りにゲーセンに立ち寄った時、「カメラを止めるな!」のポスターが目に入った。映画館に掲げられた、無名の俳優、無名のスタッフがクレジットに名を連ねる、安いメイクのゾンビが映り込んだそのポスターを見て、「うーん…別にいいや…」と呟いたのが7月の頭か中旬くらいだっただろうか。それが一月も経つ頃には上映館激増地上波に関係者出まくりどいつもこいつも観た?観た?と騒ぎ立てるほどの超話題作にまで化けようとは、よもや尿意に急き立てられた俺には露も予想出来なかった。

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 なんという後悔!!ゾンビと名の付くものならとにかく目にしなければ気が済まない貪欲さのあった19歳の俺ならば、ヨダレを垂らして即座に観に行ったであろう。ところが、ゾンビ映画界は玉石混交の修羅地獄、身も心も疲れ果て、MCUバーチャルYouTuberに牙を抜かれた24歳の俺は、「カメラを止めるな!」との出会いの意味に気付くことが出来なかった!

 無邪気な顔で「『カメラを止めるな!』観たよ!」と報告してくる友人たち。繁忙期を迎えたバイトに忙殺され大幅に鑑賞が遅れた俺。あの7月の日に観に行っていれば、この話題作を発掘するのはゾンビマニアを名乗るこの俺であったのに!!

 己の未熟さを恥じながら、8月末にようやっと観に行ったこの映画、そりゃあもう腹抱えて笑いましたよ。

 さて、ここからは内容に触れていきたいのですが、この映画は前情報の多さに比例して面白さが半減していく仕様のため、未見の方は是非本編をご覧になった上で読まれたい。

 念のためいっぱい改行しておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この映画の最大の特徴は、やはり映画本編を見せた後で、その裏で何が起こっていたのかを改めて見せなおすという、劇中劇とも二重構造とも言い表せないあまりに新しい進行だろう。妙な間や、不自然なタイミングで退出していく登場人物、あまりに都合良く手に入る武器など、物語の中の不自然な部分に、まるで白黒の線画に色がついていくように、理由が付け足される。更に、血走った形相で作品に入れ込む監督の存在や、ラストシーンのカメラアングルなど、一見問題なく展開されていると思わしき部分にも裏の理由がきちんと存在していて、「え、それも!?」という驚きの供給過多である。

 映画の前半部分である劇中映画本編は、まぁ恐らく後半で見せられるドタバタな裏側の前振りとして、やや不自然な部分やヘタな部分を強調して作られているのだと思うのだが、B級C級ゾンビ映画を数多喫してきた我が身としては、非常に覚えがあるのだ。

 ナチスのゾンビ軍団を謳っておきながら、パジャマ姿のゾンビが4,5人しか現れない『超化学実験体ゾンビロイド』。前作のハイテンションが嘘のように、精神病者のボンヤリした日常が尺の半分以上を占める『デイ・オブ・ザ・デッド2』。『ゾンビVSスナイパー』では、なんと腕利きのスナイパーであるはずの主人公はハンドガンしか使わなかった。

 これらの作品の持つ「それ何やねん?」の裏に、「監督!ゾンビ役のエキストラを乗せたバスが事故っちゃったみたいです!」「監督!今度撮る精神病院でのほのぼのドラマなんですけど、なんか急遽ゾンビ物にしてほしいらしいです!」「監督!スナイパーライフルがよくわからなかったんで、とりあえずハンドガン発注しておきますね!」などといったトンチンカンな事情が渦巻いており、それが更にチャランポランなプロデューサーの「とりあえず完成させてください、そこそこでいいんで」の一言ですべてまかり通っちゃっていたのだとしたら?

 そうした想像の中で生まれた上田慎一郎監督のゾンビ愛溢れる表現だったのかもしれないし、若しくは低予算の現場でありがちな不条理を描いた哀愁漂うあるあるネタなのかもしれない。何にせよ、この形式は間違いなく映画の現場へのこよない愛の産物であるのだろうということが、本作が特に業界人から強い称賛を受けていることからも想像に難くない。

 キャラクターも皆魅力的であった。鑑賞前、先に観てきた友人から、「お前の好きそうなメガネっ子がいるぞ」と前情報を貰っていたのだが、ぐわんぐわんのカメラ助手、最高でした。ビジュアルもさることながら、好きなカメラワークを頻りに押していく情熱と、隙あらば自分にも仕事を!というガツガツした精神が泣かせてくれるキャラであ

る。アイドル女優役も黒目がちな目が素敵だ。こだわりの強いイケメン俳優などは、打ち合わせのシーンで「人種問題がテーマだと思う」と、ゾンビ映画も齧っている風なセリフを言ってくれる(でも考えすぎだと思う)。いや、一人一人の個性が強すぎて、全部列挙していたのではこの記事が書き終わらないので、このくらいにしておきますが。観た人ならキャラが素敵なのなんてわかりきってると思いますしね。

 情熱を内に秘めるも生ぬるい仕事に角を丸くされてしまった監督が、クセの強い俳優達やプロデューサーの無茶ブリに耐えつつ、妻や娘の支えも借りて最後は皆笑顔で一本の番組を撮り上げる「カメラを止めるな!」、何よりも、何かを作り上げるということに心血を注いだことのある者が観れば必ず胸を熱くしてくれるような映画だった。

 ところで、エンディング曲がJackson 5の「ABC」をパロってるっぽい曲だったのは何かのネタだったんだろうか?分かる方いたら教えてください。